大阪地方裁判所 平成2年(ワ)8707号 判決 1991年10月29日
原告
大島文雄
右訴訟代理人弁護士
東幸生
同
和田徹
被告
株式会社キンキ商会
右代表者代表取締役
薄雲將弘
右訴訟代理人弁護士
横山昭二
主文
一 被告は原告に対し、金三四〇万円及びこれに対する平成二年一二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 この判決は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
主文と同旨
第二事案の概要(争点)
一 原告
1 消費寄託の成否
原告は被告に対し、昭和六〇年八月一八日、金二〇〇万円を期限の定めなく消費寄託する旨を約し、同日これを交付した。
2 消費貸借の成否と残債務
(1) 原告は被告に対し、平成元年九月二八日、金四〇〇万円を弁済期を同年一〇月一九日と定めて貸し渡した。
(2) 原告は被告から、内金三〇〇万円の支払を受けた(なお、被告は原告に対し、残金一〇〇万円の支払のため、同二年三月二九日付で同額面の小切手を振り出した。原告は、同年七月三一日、支払場所に右小切手を支払呈示したが、「呈示期間経過後かつ支払委託取消」の事由で支払を拒絶された)。
3 雇用契約の成立と未払賃金等
(1) 原告は、平成元年以前に被告に入社し、毎月二四日締め、月四〇万円の賃金の支払を受けていた(役職は専務取締役であったが、被告は取締役会を開催したことはなく、原告は実質的にも被告の従業員として業務に従事していた)。
(2)<1> 原告は、同二年六月二五日から同年七月一五日まで稼働していた。
<2> 被告は原告に対し、同月一六日以降、会社内への立入禁止を通告し、原告の稼働を拒否した。そこで、原告は、労務の提供が不能になったため、同日以降出社しなかった。
<3> したがって、原告は被告に対し、同年七月分の給与四〇万円の支払を求める(同月一六日以降は民法五三六条二項による)。
(3) 右(2)の請求が認められないとしても、原告は日割計算による未払賃金二八万円と解雇予告手当四〇万円(前記被告の会社内への立入禁止通告は実質的には解雇の意思表示)の合計六八万円の請求権を有するから、内金四〇万円の支払を求める。
(4) 右各請求が認められないとしても、原告は被告に対し、平成二年七月分の取締役報酬四〇万円の支払を求める。
二 被告
1 原告が被告の専務取締役であったこと、被告が取締役会を開催したことがない事実は認める。
2 寄託金について
否認する。原告主張の二〇〇万円は、被告設立の際、原告が引受けた株式三〇株、同人の妻大島トミ子が引受けた株式五株、原告の友人大西茂が引受けた株式五株(一株五万円)の合計四〇株、二〇〇万円の株式払込金であり、被告の設立登記の一〇日後に被告代表取締役薄雲將弘(以下「被告代表者」という)が原告から受領したものである。
3 消費貸借の成立について
否認する。なお、原告が所持する額面一〇〇万円の小切手は被告を欺罔して振出交付を受けたもので、被告に支払義務はない。
4 未払賃金について
否認する。被告が原告に対し、毎月四〇万円を支払っていたのは、原告に強迫されたためである。また、被告は原告に対し、七月分の役員報酬四〇万円の支払義務はない。けだし、役員報酬は、役員が信義を守り誠実に会社の業務に従事した場合に、支払を受けることができるもので、原告のように被告に対し、高利子で金員を貸し付けて多額の利息収入を得ていたものが会社の業務に従事することなく、役員報酬を請求することはできない。
第三争点に対する判断
一 消費寄託の成否
1 証拠(<証拠略>、原告の供述)、弁論の全趣旨によると、原告は、昭和六〇年八月一八日、被告代表者から倒産した釣具店の商品を買取る資金として二〇〇万円が必要である等として金員の融通を依頼されたこと、そこで、原告は、被告が二〇〇万円を消費し、後日、被告から同額の金員の返還を受ける意思で同額の金員を交付したところ、被告代表者は原告に対し「二〇〇万円の預り証」を作成、交付したことが認められる。
右認定事実に照らすと、原告は被告に対し、二〇〇万円を消費寄託したものと解するのが相当である。
2 被告は、右金員を原告、その妻、大西茂の株式払込金である旨主張し、被告代表者もこれに副う供述をしている。
しかしながら、<1>証拠(<証拠略>、原告の供述)によると、原告の右出資金は自己及び妻の株式引受分を含めて合計一七五万円であり、右払込金は同六〇年八月七日の時点で払込済みであること、<2>原告が大西の株式払込金を支払ったことを裏付ける客観的証拠はないこと、<3>被告代表者は右二〇〇万円を授受した経緯につき「被告設立の際、被告代表者が原告の負担すべき株式引受金を立替払したので、原告が右同日これを返済したものである」旨供述し、他方では立替払金であることを否定する供述をする等、その供述は曖昧で首尾一貫しないこと等を総合勘案すると、前記株式払込金である旨の供述は措信できない。
二 消費貸借の成否
証拠(<証拠・人証略>、原告、被告代表者の各供述)によると、次の事実が認められる。
1 原告は、同六〇年六月二五日、被告の前身・キンキ商会に対し、一〇〇〇万円を融資したのを初め、被告設立(同年八月一〇日設立)以降も融資を継続した。すなわち、原告は、右貸付金を尼崎信用金庫立花支店から年八・〇ないし八・五パーセントの利率で融資を受け、被告に対し利息制限法を大幅に下回る年利一〇パーセントで金員を貸与した。その貸付方法は、原告が融資金を被告名義の三和銀行の預金口座に振り込んだうえ、振込通知書を被告に提示し、手形・小切手の振出交付を受け、その支払を受けて貸付金を回収するというものであったが、実際には支払が次第に滞った。原告は漸次増加を続ける融資額に不安を抱いたが、被告が倒産すると従前の貸付金の回収が不可能になるとの判断から不本意ながらも融資を継続した。
2 この間、原告は被告に対し、平成元年九月二八日付で四〇〇万円を貸与したところ、その後、被告は三〇〇万円を返済した。そして、被告は原告に対し、右残金一〇〇万円の支払のため、額面一〇〇万円の小切手を振出した。しかし、原告は同小切手を紛失したため、被告に対し同額面の小切手を再発行を求めた。これに対し、被告代表者の妻で取締役兼経理担当の薄雲純子(以下、純子という)は、小切手帳の控えの「半ぴら」で右紛失小切手番号を確認したうえ、原告から、同二年三月二九日付で「金一〇〇万円の小切手が不明であるため小切手を再発行すること、後日小切手が発見された場合には再発行小切手(EP〇一六八九)を返還する」旨の証を交付させ、自らも「不明の小切手の取立てがなければ、再発行小切手は有効である」旨の添書を行い、前記一〇〇万円の貸付金の支払のために額面一〇〇万円の小切手を再発行した。
3 原告は、同年七月三一日、支払場所に右小切手を支払呈示したが「呈示期間経過後かつ支払委託取消」の事由で支払を拒絶され、現在まで右小切手金の支払を受けてはいない。
4 右1ないし3認定の事実によると、原告は被告に対し、平成元年九月二八日付で四〇〇万円を貸し渡したが、内金三〇〇万円の支払を受けたのみであるから、貸付金残金一〇〇万円の支払請求権を有することが明らかである。
三 雇用契約の成立、未払給与の有無
証拠(<証拠略>、原告、被告代表者の各供述)、弁論の全趣旨によると、被告はその設立以来取締役会を開催したことはないこと、原告は、被告の設立と同時に専務取締役に就任したが、実際には営業、荷作り、種々の雑用に従事し、取締役としての仕事はなく、自ら取締役として行動したこともなかったこと、この間、原告は自己資金を被告の運営資金として融資する等し、経理面について意見を述べたことはあったが、取締役の純子が小切手振出等を含めて経理を担当していたこと、原告は、少なくとも昭和六二年以降、毎月二四日締めで「給料」として四〇万円の支給を受けていたこと、原告は平成二年六月二五日から同年七月一五日まで稼働したが、被告は原告に対し、同月一六日以降、会社内への立入禁止を通告し、稼働を拒否したこと、原告は同年七月分の四〇万円の支払を受けていないことが認められる(被告は、原告の強迫により毎月四〇万円を支払ってきた旨主張する。しかし、被告は強迫の具体的内容を主張しないのみならず、証拠〔<証拠略>、原告の供述〕によると、被告は原告に対し長期間にわたり毎月四〇万円の支払を継続し、殊に原告が脳梗塞で入院中の平成二年春頃以降も四〇万円の支払を継続していたことに照らすと、原告が被告側に対する強迫により四〇万円の給付を受けていたと認めることは困難である)。
右認定事実によると、原告は名義上の取締役であったが、実質上は被告の従業員として勤務してきたものであるから、原告が被告から支払を受けていた四〇万円は従業員としての賃金であると解するのが相当であるところ、同年七月分の賃金四〇万円が未払であることは明らかである(なお、被告は、同年七月一六日以降、原告の労務の提供を拒否しているから、民法五三六条二項の適用により、原告は被告に対し少なくとも同月二四日分までの未払賃金を請求できる)。
四 結論
以上の次第であるから、原告の被告に対する合計金三四〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成二年一二月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める請求は理由がある。
(裁判官 市村弘)